クライアントが動けないとき|次の一歩を支える3つの関わり方

ティーチングもした。コーチングも試した。
それでも、動けない。
人を支える仕事をしていると、そんな場面があります。
やることは伝えている。理由も説明した。小さなステップにも分解した。
それでも、行動につながらない。
私の力が足りないのか。
関わり方が、この人には合っていないのか。
正直、そう感じた時期があります。
私は教員として27年、ドッジボールの監督として13年、人を育てる仕事に携わってきました。それでも、相手が変われば、同じ関わり方が通用するとは限りません。ビジネスコーチになってからも、その都度考えてきました。
人を支える仕事では、知識を伝えた先で、相手が実際に取り組めるかどうかまで見ていく必要があります。
今回は、クライアントさんの行動が止まったときに、支える側が見直したい3つの関わり方をお伝えします。
動けない理由を、先に決めつけない
たとえば、次のような違いが考えられます。
- 説明を聞いていても、実際にやろうとすると手順が分からない。
- 何をすればよいかは分かっていても、失敗や相手の反応が怖い。
- 頭では大事だと分かるけれど、自分に必要なことだとは感じられない。
同じ「動けない」でも、必要な支援は違います。
ここを確かめずに、説明を増やしたり、もっと頑張るように促したりしても、相手の困りごとに届かないかもしれません。
これからお伝えする3つも、全員に同じ順番で当てはめる手順ではありません。
今、目の前の相手に必要な関わり方を選ぶための視点です。

① 本人が何を望んでいるのか、じっくり聴く
教師時代、私が特に時間をかけていたのが、「総合的な学習の時間」の課題設定でした。
どんなことを調べたいのか。
なぜ、それが気になるのか。
課題の形を早く整えることより、本人が本当に知りたいことを確かめる時間を大切にしていました。
先生が決めた課題や、周囲から期待された課題では、本人が探究を続ける理由が弱いことがあります。
本人の内側から湧き出た問いが、取り組みを続ける力になると考えていたからです。
「なぜそれを知りたいの?」
「なぜそれが気になるの?」
やり取りを重ねる中で、自分が本当に取り組みたいことが見えてくる。
そのとき、子供の目が輝き、声や姿勢が変わる場面を見てきました。
大人への支援でも、こちらが勧めた目標と、本人が望んでいることが重なっているかを確かめたいと思っています。
そのためには、聴き方が大事です。
次に何を言おうかと考えながらでは、相手の言葉を自分の説明につなぐ材料にしてしまいます。
私は「耳+目+心」で聴くことを大切にしています。言葉だけでなく、表情や声にも目を向け、相手が何を伝えようとしているのかを受け取る。
「なぜ」を決まった回数繰り返せばよい、ということではありません。
たとえば、どこが気になっているのか、どうなったらうれしいのか。本人が話しやすいところから、一緒に確かめていきます。
そこを大切にしたいのです。
② 失敗を責めず、試せる一歩をつくる
ドッジボールの監督として、私がチームに伝え続けてきた方針があります。
「何をしてもいい。ただ、即断即決即行動だけを評価する」
全国大会の決勝戦のような場面では、緊張の中で一瞬の判断が求められます。
正しい答えを探して立ち止まるより、練習してきたことを使って、自分で判断し動く。その行動を大切にしていました。
この経験から、ビジネスの支援でも大切にしていることがあります。
うまくできる自信がつくまで待つだけでなく、今の自分で試せることを見つけることです。
たとえば、商品づくりで止まっているなら、まず「誰の、どんな困りごとを支えたいか」を一つ書き出してみる。
言葉にできなければ、これまで人から相談されたことを一緒に振り返り、支えられそうな困りごとを探してみる。
「動いてください」と言うだけでなく、どこまでなら取り組めるかを考えます。
そして、動いた後の関わりが大事です。
うまくいかなかったときに責められれば、次の挑戦より、間違えないことに意識が向いてしまいます。
まず、試したことを認める。
そのうえで、何ができて、どこがうまくいかなかったのかを一緒に見る。
結果を確かめることも必要です。試しただけで終わらせず、次に変えるところを一つ見つけるためです。
挑戦を認めることと、改善を伝えることは、両方できます。
失敗しても相談できる関係があれば、うまくいかなかった経験も次の練習に使えます。

③ 必要感を育て、助言が届くときを捉える
独立した当初、私はクライアントさんが困ると、すぐにアドバイスしようとしていました。
助言に沿って動いても、また止まる。
また聞いて、また動く。
その繰り返しから、こちらが答えを渡す前に、本人が何に困り、何を知りたいのかを聴くことの大切さを考えるようになりました。
最近、情報発信の支援でも、関わり方を変えたことがあります。
数字を意識して改善することは、本当に大事です。
ただ、本人がその必要を感じていなければ、数字は負担にしかならないことがあります。
そこで、数字を一切見ず、まずは30点でいいから発信を続けることにしました。
実際には、1か月ぐらいは行動できても、次第にスローダウンしていく。
反応がなければ、やる気を保つのは難しいんですね。
ここで、本人が反応を得たい、数字を増やしたいと感じれば、それを満たすための知識やアドバイスが必要になります。
私は、これを「必要の充足」と捉えています。
必要としているところに届く知識は、砂に水が染み入るように吸い込まれ、自分のものになっていく。
必要感がないまま注ぎ続けても、ガチガチのコンクリートの上の水たまりのように、染み込んでいきません。
この実例で伝えたいのは、数字を見ない方法を全員に勧めることではありません。
数字が大事だからこそ、本人が自分のために使える段階をどうつくるか、ということです。
ただ待つだけでなく、まず試せるようにする。
その経験から何を感じ、次に何を求めているのかを聴く。
必要になったところで、具体的な知識や助言を届ける。
必要感をどう育てるのか。
そこに、対人支援者の関わりの腕が表れると思います。

次の支援で、自分の関わり方を一つ見直す
クライアントさんの行動が止まったときは、支える側の関わり方を見直す機会でもあります。
今、気になっている相手を一人思い浮かべてみてください。
- 本人が望んでいることを、本人の言葉で聴けているか。
- 何が分からず、どこで止まっているのかを確かめたか。
- 今の相手が試せる一歩になっているか。
- 試した後、一緒に結果を見て、次に変えることを考えているか。
- 今渡そうとしている助言を、本人は必要としているか。
全部を一度に変える必要はありません。
次の対話で確かめること、関わり方を変えることを、一つ選んでみてください。
対人支援も同じだと感じています。
水を飲むのは本人です。
それでも、本人がそこへ向かう過程で、支える側にできることはあります。
話を聴く。取り組める一歩をつくる。必要になった知識を届ける。
そして、やってみた結果を一緒に振り返り、次へつなげる。
相手が動かないと嘆く前に、自分の関わり方を見直す。
私は、その積み重ねを大切にしていきたいと思っています。







