「それなりでいい」と思う前に|キャロルの時間モデルと、私のセッションが120分ある理由

たった一度の人生、このままでは終わらせない。
そう決めて、動き始めた。
でも、本を読んでも、動画を見ても、講座に出ても、分からないことが増えていく。まわりは、どんどん先へ進んでいるように見える。
「自分は、飲み込みが遅いのかもしれない」
「やっぱり、そこまでの能力はないのかもしれない」
「それなりでいいか」
決めたはずの気持ちが、少しずつしぼんでいく。
もし今、あなたがそこにいるなら、この話を読んでほしい。
私も、そこにいました。退職を決めたあと、メンターにつくまでの私は、自己流でずっと迷走していました。
今、たくさんのクライアントさんのサポートをしてきて、はっきり言えることがあります。
成功するまでの時間が違うだけ。能力は関係ない。
そう確信できたとき、教員時代に出会った一つの理論が、つながりました。
私は小学校の教員を27年やってきました。若い頃といっても40を過ぎた頃ですが、ある理論に出会って、私の教育観が変わりました。いや、救われたんです。
それが「キャロルの時間モデル」です。
この理論と、一人の女の子の話をさせてください。
「私、算数、大っ嫌いだから」
6年生を担任したとき、Kさんという女の子がいました。
算数が苦手。できない自分を、友達や先生に知られたくない。きっと誰よりもやさしくて、人の期待に応えたいと思う子でした。
出会ったときのKさんの口癖は、これです。
「私、算数、大っ嫌いだから」
「もうやりたくない」
「楽しくもない」
これを、にこにこ笑って言うんです。
この笑顔、あきらめとは違う。Kさんの心の中を、ほんとよく表しているなと思いました。この子なりの自己防衛でありながら、まわりへの気遣いでもある。私には、そんなふうに映りました。
案の定、算数は嫌いと言うだけのことはありました。授業中も苦手、宿題もてきとう、テストの点もかなり低い。
たしかに、5年生の「割合」あたりからは内容が抽象的になります。それまでの積み上げができていなかったら、ほんと難しいと思います。
学び合いへの疑問
よく見る授業スタイルに「学び合い」があります。私も好きでやっていました。授業終盤には、得意な子や早くできた子が、なかなかできない子に教えるやつです。
早くできた子も手持ち無沙汰にならず、人からも感謝される。ちょっとした優越感も味わえるかもしれません。
でも、教えられる側からしたらどうでしょう。感謝というより、劣等感がつのるだけ。
それ、学級経営が甘いからだろうと思われてもいい。私は、同じクラスの友達から教えられるという行為は、へたをすると見下しにつながると実感していました。
だから、特に算数の学び合いには疑問を感じていたんです。
そこで出会った、キャロルの時間モデル
そんなときに出会ったのが、キャロルの時間モデルでした。
アメリカの教育心理学者ジョン・B・キャロルが、1963年に発表した「学校学習のモデル」です。
ざっくり言うと、こうです。
キャロルは能力(適性)を、「できる・できない」ではなく、「その人が身につけるまでに必要な時間」として捉えました。もちろん、よい教え方や本人の意欲といった条件がそろっていることが前提です。
得意な子は、早く身につけられる子。苦手な子は、もう少し時間が必要な子。違いは、それだけ。
この考え方は、のちにブルームが提唱した「完全習得学習」(一人ひとりに合った時間と教え方を用意して、全員が目標にたどり着くことをめざす学び方)の土台の一つにもなりました。
これを知ったとき、ほんと、胸のつかえがとれました。
Kさんは、できないんじゃない。まだ、Kさんに必要な時間をかけてやれていないだけなんだ、と。
私は、友達ではなく、私が教えることにしました。賛否両論あると思います。
授業終盤の学び合いの時間は、特に苦手な子数名だけを黒板の前に集めて、つきっきりで教えました。自分でできそうな子、得意な子は、もうほったらかし。休み時間もKさんを捕まえて、つきっきりで教えました。
だって、違うのは時間だけなんです。その子なりに時間がかかるんだったら、その時間をかけてやろうと。
すぐに、Kさんの目が輝き始めました。教えたあとには、「ありがとう先生、また教えてほしい」と、はにかみながら小声で言ってくれました。
100点の物語にはならなかった
これで、めちゃくちゃ算数が得意になって、テストでバンバン100点を取れるようになった。そう言えたら最高の物語かもしれません。
でも、そうはなりませんでした。
起きたのは、こんなことです。
早くできた子、いわゆる得意な子も、いっしょになって教えてくれるようになりました。自分でがんばればできそうな子も、自分で解けたら手伝ってくれるようになりました。
そしてKさんは、こう言ってくれました。
「先生、6年生になってから、算数が初めて楽しいと思えた」
テストの点は、Kさんなりに伸びました。
「先生、前よりなんか点数が上がって、うちのお父さんが怪しんでる」
なんて話もしてくれました。
その後、学び合いは社会科、特に歴史の授業で多用しました。それぞれの考えや思いを、友達とあーだこーだ言いながら話し合う授業は、ほんと、うちのクラスの象徴でした。
市主催の指導教諭示範授業(ほかの先生方に授業を公開する機会)では、大勢の先生方に来ていただいて、うちのクラスの社会科の授業を見てもらいました。
早い・遅いに、優劣なんてない
早くできる子には、良さもあれば課題もある。ゆっくりな子にも、良さもあれば課題もある。
ただ、学校のように決まった時間、決まったカリキュラムにばちっとはまる子が、学校で活躍しやすいだけ。決して優劣なんてありません。
遅い子は落ちこぼれでも何でもない。じっくり時間をかけて前進するのが好きな子。人の言いなりにならず、自分がちゃんと納得して進みたい人。それだけのことです。
学校には「総合的な学習の時間」という授業があります。大人でも解決が難しい課題を、子どもたちが自分で探究していく授業です。
まさに、あれ。そこには優劣なんてない。協働という名のもとで、それぞれの得意を活かして、みんなで課題を解決していく姿があります。
そう、あなたにも、あなただけの得意があり、強みがあり、経験がある。
時間をかけるというのは、それを最大限に活かすために必要な時間が、一人ひとりにあるということです。
迷走しているのは、能力がないからじゃない
このままでは終わらせないと決めて、新しい世界に飛び込む。そのとき大人も、Kさんと同じ席に座ることになります。
知らない言葉が次々に出てくる。まわりは、すいすい進んでいるように見える。分からない自分を人に知られたくなくて、分かったふりをして先へ進んでしまう。
そして気づけば、自己流で迷走している。
でもそれは、あなたに能力がないからじゃない。あなたに必要な時間と関わりに、まだ出会えていないだけです。
このブログを読んでくれている方には、先生や、人を支える仕事をしてきた方も多いと思います。目の前の子や生徒、部下が分かるまで、言い方を変えて、待って、何度でもつきあってきた。あなたはずっと、誰かのために時間をかけてきた人です。
今度は、その時間を自分にかけていい。
私も50歳で、ゼロから起業しました。退職を決めたあとは、分からない言葉だらけ。「メンター」(伴走しながら導いてくれる先輩や指導者のこと)という言葉さえ、よく分かっていませんでした。
メンターにつくまでは、自己流でずっと迷走していました。そこから一つずつ納得しながら積み上げてきて、今があります。

私のセッションが120分で、延長ありの理由
起業してから、たくさんのクライアントさんのサポートをしてきました。
そこで確信したことがあります。
みなさん、成功するまでの時間が違うだけ。能力は関係ない。そこに優劣もない。
そう確信できたとき、教員時代に出会ったキャロルの時間モデルが、つながったんです。
これが、今の私のサポートの特徴です。
セッション時間は120分。おそらく多いのは、60~90分程度だと思います。
そして、分かるまで延長します。最高で5時間を過ぎることもあります。逆に、120分ですぱっと終わることもある。
言いたいのは、長ければいいということではありません。早くできるかどうかは能力の差ではなく、個性。
その人が納得して進むための時間を、ちゃんとかけたいんです。
あるクライアントさんが、こう言っていました。
「納得しながら積み上げていることが実感できている。これがやりたかった」
この方は以前、月に1回60分の個別相談とグループコンサルでやっていて、なかなか結果が出なかった方です。
まだサポートが始まったばかりですが、目をキラキラ輝かせながら前進されています。自分の力で。


第二の人生こそ、自分の力で拓くもの
Kさんの話ではないですが、自分の力で進めるようになれば、一点突破全面展開。一つのところを突き抜けたら、そこから全部が開けていきます。すべてが、最高のタイミングで拓かれていくはずです。
キャロルの時間モデルに出会ってから、私は、本気で人生をよりよくしたい人に、私も本気でかかわりたいと思うようになりました。その一つのキーが、時間です。
私ができることにも、もちろん限りがあります。
だけど、私ができるときに、できることを、できる限りの時間をかけて、全身全霊でやる。その最高のお手伝いを、私はさせてもらいます。
たった一度の人生、このままでは終わらせないと決めたあなたが、「それなりでいい」に戻る必要はありません。
Kさんが6年生で初めて算数を楽しいと思えたように、あなたにも、これから「楽しい」と思える時間が待っています。
出典:J. B. Carroll (1963) “A Model of School Learning,” Teachers College Record/J. B. Carroll (1989) “The Carroll Model: A 25-Year Retrospective and Prospective View,” Educational Researcher







